育児休業を取得する際に受給できる育児休業給付金は、働く親にとって重要な経済的支援制度です。この給付金の金額を決定する際、「賃金支払基礎日数が11日以上」という要件が大きな役割を果たしていることをご存知でしょうか。給付金の計算方法を理解する上で、この11日以上という基準は避けて通れない重要なポイントとなっています。
育児休業給付金は、育児休業開始前の賃金を基に計算されますが、どの期間の賃金を基準とするかが給付金額に直接影響します。そして、その基準となる期間を決定する際に、賃金支払基礎日数が11日以上あるかどうかが判定されるのです。この要件を正しく理解していないと、想定していた給付金額と実際の支給額に差が生じる可能性があります。
特に、月の途中で入社した方、欠勤が多かった方、短時間勤務をしていた方などは、11日以上の要件を満たしているかどうかを事前に確認しておくことが重要です。また、令和2年8月からは、賃金支払基礎日数が11日未満でも、労働時間が80時間以上あれば算定対象となる新しい基準も導入されており、制度がより複雑になっています。
本記事では、育児休業給付金の計算における「11日以上」という要件について、その意味、適用場面、具体的な影響、計算方法などを詳しく解説していきます。これから育児休業を取得する予定の方、給付金の金額を正確に把握したい方にとって、実用的な情報を提供できれば幸いです。
育児休業給付金の計算における11日以上の要件とは
育児休業給付金の金額を決定する上で、賃金支払基礎日数が11日以上という要件は中心的な役割を果たしています。ここでは、この要件の基本的な意味や適用される場面について詳しく見ていきます。
賃金支払基礎日数11日以上の意味
賃金支払基礎日数とは、賃金計算の対象となった日数のことを指します。具体的には、その月において実際に働いた日数や、有給休暇を取得した日数など、賃金が支払われる基礎となった日数を意味します。この日数が11日以上ある月が、育児休業給付金の計算における「完全な月」として扱われます。
育児休業給付金の金額は、育児休業開始前の賃金を基に算出されます。その際、「賃金月額」という概念が用いられますが、この賃金月額を計算するためには、まず算定対象となる期間を特定する必要があります。原則として、育児休業開始日の前日から遡って6か月間が算定対象期間となりますが、この6か月間すべてが計算に使われるわけではありません。
6か月間のうち、賃金支払基礎日数が11日以上ある月だけが計算対象となります。例えば、6か月間のうち5か月が11日以上の条件を満たし、1か月が11日未満だった場合、その11日未満の月は除外され、11日以上の5か月分の賃金を基に計算が行われます。このように、11日以上という基準は、どの月を計算に含めるかを決定する重要な判断基準となっているのです。
賃金支払基礎日数の数え方は、雇用形態や給与体系によって異なります。月給制の労働者の場合、暦日数がそのまま賃金支払基礎日数となることが一般的です。つまり、31日ある月であれば31日、30日ある月であれば30日が賃金支払基礎日数となり、欠勤や休職がなければ自動的に11日以上の要件を満たします。
一方、時給制や日給制の労働者の場合は、実際に労働した日数が賃金支払基礎日数となります。例えば、ある月に10日間働いた場合、賃金支払基礎日数は10日となり、11日以上の要件を満たしません。この場合、その月は育児休業給付金の計算対象から除外されることになります。
有給休暇を取得した日は、賃金が支払われるため、賃金支払基礎日数に含まれます。例えば、実際の出勤日数が8日で、有給休暇が3日ある場合、賃金支払基礎日数は11日となり、要件を満たします。一方、無給の欠勤や休職期間は賃金支払基礎日数に含まれません。
産前産後休業を取得した期間も、賃金が支払われない場合は賃金支払基礎日数に含まれません。そのため、産前休業開始月などは11日以上の要件を満たさないことがあり、計算対象から除外される可能性があります。この点は、産後すぐに育児休業に入る方にとって特に重要な確認ポイントとなります。
賃金支払基礎日数が11日以上という基準は、雇用保険制度全体で用いられている共通の基準です。失業給付の基本手当を計算する際も、同様に11日以上という要件が適用されます。この基準は、1か月のうち約3分の1以上働いていれば、その月の賃金を計算の基礎とすることが適切だという考え方に基づいています。
11日という具体的な数字の根拠は、週休2日制を前提とした場合の最低限の労働日数を想定したものとされています。1か月を4週と考えると、週休2日で週5日勤務の場合、月に20日程度働くことになります。その半分強の11日以上あれば、その月の賃金が通常の労働実態を反映していると判断できるという考え方です。
この11日以上という要件を理解することは、自分の給付金額を正確に予測する上で不可欠です。特に、育児休業開始前の6か月間に、欠勤が多かった月、短時間勤務をしていた月、月の途中で入社または退社した月などがある場合には、その月が計算対象に含まれるかどうかを事前に確認しておくことが重要です。
11日以上の要件が適用される場面
賃金支払基礎日数11日以上という要件は、育児休業給付金の計算における複数の場面で適用されます。それぞれの場面での適用方法を理解することで、給付金計算の全体像を把握することができます。
最も基本的な適用場面は、前述の通り、賃金月額を算出するための算定対象期間を決定する際です。育児休業開始日の前日から遡って6か月間のうち、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が何か月あるかを確認し、その月数分の賃金を集計します。6か月すべてが11日以上であれば、6か月分の賃金合計を6で割って賃金月額を算出します。
しかし、6か月間のうち11日以上の月が6か月に満たない場合はどうなるでしょうか。例えば、6か月間のうち5か月だけが11日以上の要件を満たす場合、その5か月分の賃金合計を5で割って賃金月額を計算します。4か月だけが11日以上であれば、4か月分を4で割ります。このように、実際に11日以上ある月の数に応じて計算方法が調整されます。
ただし、算定対象期間として認められる最低限の月数が定められています。原則として、11日以上ある月が最低でも1か月は必要です。6か月間を遡っても11日以上の月が1か月もない場合、さらに遡って11日以上の月を探します。最終的には、最大で12か月前まで遡ることができます。
例えば、育児休業開始前の6か月間に産前産後休業があり、その期間中は賃金が支払われていなかったため、11日以上の月が十分に確保できない場合があります。このような場合、産前産後休業より前の期間まで遡って、11日以上ある月を探し、それを基に賃金月額を計算します。
11日以上の要件は、育児休業給付金の受給資格要件の判定にも関連しています。育児休業給付金を受給するためには、育児休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が通算して12か月以上あることが必要です。この要件を満たしていないと、そもそも給付金を受給できません。
この受給資格要件における11日以上の判定と、給付金額計算における11日以上の判定は、目的が異なります。受給資格は「受給できるかどうか」を判定するもので、2年間で12か月分を確認します。一方、給付金額計算は「いくら受給できるか」を決定するもので、直前の6か月間を確認します。両方の要件を満たして初めて、適切な金額の給付金を受給できることになります。
11日以上の要件が重要になるもう一つの場面は、複数の事業所で働いていた場合です。例えば、メインの勤務先とパートの掛け持ちをしていた場合、それぞれの事業所での賃金支払基礎日数を合算するのではなく、それぞれの事業所ごとに判定を行います。育児休業給付金は、育児休業を取得する事業所での賃金を基に計算されるため、その事業所での11日以上の要件を満たしているかが重要となります。
短時間勤務制度を利用していた期間も、11日以上の要件が適用されます。育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度を利用していた場合でも、賃金支払基礎日数が11日以上あれば、その月の賃金は計算対象に含まれます。ただし、短時間勤務により賃金が減額されている場合、それが給付金額にも反映されることになります。
試用期間中の賃金も、11日以上の要件を満たしていれば計算対象に含まれます。試用期間中は本採用時より賃金が低い場合がありますが、その金額がそのまま計算に使われます。逆に、試用期間終了後すぐに育児休業に入る場合、試用期間中の低い賃金が計算基礎となる可能性があるため、注意が必要です。
賞与やボーナスは、原則として賃金月額の計算には含まれません。賃金支払基礎日数の判定においても、賞与は通常の賃金とは別扱いとなります。したがって、賞与が支払われた月でも、通常の月給部分での賃金支払基礎日数が11日以上あるかどうかが判定されます。
残業代や各種手当は、基本給と合わせて賃金として計算されます。賃金支払基礎日数の判定においては、残業の有無は直接影響しませんが、11日以上働いた月の賃金総額には残業代も含まれるため、結果的に給付金額に反映されることになります。
11日以上と80時間以上の関係
令和2年8月1日から、育児休業給付金の計算において新しい基準が導入されました。従来は賃金支払基礎日数が11日以上という基準のみでしたが、これに加えて「賃金支払基礎日数が11日未満でも、労働時間が80時間以上あれば算定対象とする」という基準が設けられたのです。
この変更は、雇用保険制度全体の改正の一環として行われました。失業給付の基本手当の計算でも同様の基準が導入されており、働き方の多様化に対応するための改正とされています。特に、短時間労働者やシフト制で働く労働者にとって、より実態に即した給付金額が算定されるようになりました。
80時間以上という基準は、1日8時間労働で10日間働いた場合の労働時間に相当します。つまり、労働日数は11日に満たないものの、1日あたりの労働時間が長い場合には、その月の賃金を計算に含めることができるようになったということです。これにより、例えば週1回の休日に長時間勤務をしているような働き方でも、適切に評価されるようになりました。
11日以上と80時間以上の関係を整理すると、次のようになります。賃金支払基礎日数が11日以上ある月は、無条件で算定対象となります。賃金支払基礎日数が11日未満の月であっても、その月の労働時間が80時間以上あれば、算定対象に含めることができます。賃金支払基礎日数が11日未満で、かつ労働時間も80時間未満の月は、算定対象から除外されます。
この新基準により、計算対象となる月が増える可能性があります。例えば、ある月に9日間働き、1日12時間の勤務で合計108時間働いた場合、従来の基準では11日未満のため算定対象外でしたが、新基準では80時間以上のため算定対象に含めることができます。
ただし、80時間以上の基準が適用されるのは、令和2年8月1日以降に開始する育児休業についてです。それ以前に開始した育児休業については、従来通り11日以上の基準のみが適用されます。また、労働時間の算定には、事業主が労働時間を適切に記録していることが前提となります。
80時間の労働時間には、所定労働時間だけでなく、時間外労働(残業)も含まれます。例えば、所定労働時間が合計70時間で、残業が15時間あった場合、合計85時間となり、80時間以上の要件を満たします。ただし、休憩時間は労働時間に含まれません。
有給休暇を取得した日の扱いは、11日以上の基準と80時間以上の基準で異なります。有給休暇は賃金支払基礎日数には含まれますが、実労働時間には含まれません。そのため、有給休暇を多く取得した月は、11日以上の基準では有利になりますが、80時間以上の基準では不利になる可能性があります。
例えば、ある月に実労働日が8日(各8時間)で64時間、有給休暇が5日あった場合を考えます。賃金支払基礎日数は8日+5日=13日となり、11日以上の要件を満たします。しかし、実労働時間は64時間であり、80時間未満です。この場合、11日以上の基準で算定対象となるため、80時間の基準を考慮する必要はありません。
逆に、実労働日が9日(各10時間)で90時間、有給休暇が0日の場合、賃金支払基礎日数は9日で11日未満ですが、実労働時間は90時間で80時間以上です。この場合、80時間以上の基準により算定対象となります。
この新基準の導入により、特に恩恵を受けるのは、長時間勤務を少ない日数でこなす働き方をしている方です。例えば、看護師や介護職など、夜勤を含む長時間シフトで働いている方、週3〜4日の勤務で1日の労働時間が長い方などが該当します。
一方で、短時間パートで働いている方の場合、1日の労働時間が短いため、多くの日数働いても80時間に達しないことがあります。例えば、週5日、1日4時間勤務の場合、月に20日働いても労働時間は80時間となり、ぎりぎりです。このような場合、11日以上の基準の方が有利になります。
実務上は、事業主が提出する「休業開始時賃金月額証明書」において、賃金支払基礎日数と労働時間の両方が記載されます。ハローワークは、この証明書を基に、11日以上または80時間以上のいずれかの基準を満たしているかを判定します。両方の基準を満たしている場合でも、11日以上の基準が優先的に適用されます。
80時間以上の基準を適用する際の注意点として、労働時間の記録が正確である必要があります。タイムカードや勤怠管理システムなどで客観的に労働時間が記録されていることが望ましいでしょう。自己申告のみの労働時間では、証明が困難になる可能性があります。
11日以上を満たさない場合の扱い
賃金支払基礎日数が11日以上(または80時間以上)を満たさない月が育児休業開始前の6か月間にある場合、その月は計算対象から除外されます。しかし、それによって給付金が受給できなくなるわけではありません。ここでは、11日以上を満たさない月がある場合の具体的な扱いについて説明します。
まず、6か月間のうち一部の月が11日以上を満たさない場合、その月を除いた残りの月だけで賃金月額を計算します。例えば、6か月間のうち5か月が11日以上で1か月が11日未満だった場合、5か月分の賃金合計を5で割って賃金月額を算出します。このように、要件を満たす月だけを使って計算することで、より実態に即した給付金額が算定されます。
ただし、算定対象となる月が極端に少ない場合には、さらに過去に遡る必要があります。原則として、育児休業開始前の6か月間で計算しますが、その期間に11日以上の月が十分にない場合、最大で12か月前まで遡ることができます。例えば、直前6か月間に11日以上の月が2か月しかない場合、7か月目以降も遡って11日以上の月を探し、合計で6か月分確保することが目指されます。
産前産後休業を取得していた場合は、特別な扱いがなされます。産前産後休業期間中は通常賃金が支払われないため、その期間は賃金支払基礎日数が0日となります。そのため、産前産後休業の前の期間まで遡って、11日以上の月を確認します。例えば、産前産後休業が4か月間あった場合、育児休業開始前の6か月間の大部分が産休期間に該当するため、産休開始前まで遡って計算対象月を確保することになります。
傷病などで長期間休職していた場合も同様です。休職期間中に賃金が支払われていない場合、その期間は11日以上の要件を満たさないため、休職前の期間まで遡ります。ただし、休職期間中でも何らかの手当が賃金として支払われている場合は、その金額を基に賃金支払基礎日数が判定されます。
月の途中で入社した場合、その月の賃金支払基礎日数は入社日からの日数となります。例えば、月の20日に入社した場合、その月の賃金支払基礎日数は10日程度となり、11日以上の要件を満たさない可能性があります。この場合、その月は計算対象から除外され、翌月以降の11日以上ある月が計算に使われます。
逆に、月の途中で退職した場合も同様です。退職月は賃金支払基礎日数が少なくなるため、11日以上の要件を満たさないことがあります。ただし、育児休業は通常、退職を前提としない制度であるため、退職月の扱いが問題になることは少ないでしょう。
時短勤務や短時間勤務をしている場合、労働日数が少なくなることで11日以上の要件を満たしにくくなることがあります。例えば、週3日勤務の場合、月に12〜13日程度の勤務となりますが、祝日や年末年始があると11日未満になる可能性があります。このような場合、80時間以上の基準が適用できるかどうかを確認することが重要です。
シフト制で働いている場合、月によって勤務日数が大きく変動することがあります。繁忙期には15日以上働いても、閑散期には10日以下しか働けないといった状況が生じます。育児休業開始前の6か月間に閑散期が含まれていると、11日以上の月が少なくなり、計算対象月が減少する可能性があります。
11日以上を満たさない月が多い場合、結果的に給付金額が高くなることも、低くなることもあります。例えば、残業が多く賃金が高かった月が11日未満で除外され、残業が少なく賃金が低かった月だけが計算対象になった場合、給付金額は低くなります。逆に、賃金が低かった月が除外され、賃金が高かった月だけが計算対象になれば、給付金額は高くなります。
事業主の都合による休業があった場合、休業手当が支払われていれば、その金額も賃金に含まれます。休業手当が支払われた日は賃金支払基礎日数に算入されますので、11日以上の要件判定にも影響します。ただし、休業手当は平均賃金の60%以上と定められているため、通常の賃金より低くなることが一般的です。
欠勤が多かった月も、11日以上の要件を満たさない可能性があります。特に、無給の欠勤は賃金支払基礎日数に含まれないため、欠勤日数が多いと11日未満になることがあります。一方、有給休暇を使った欠勤は賃金支払基礎日数に含まれますので、11日以上の要件判定に影響しません。
結論として、11日以上を満たさない月があっても、それ以外の月で適切に計算が行われるため、給付金が受給できなくなることはありません。ただし、計算対象となる月が少なくなることで、給付金額が想定と異なる可能性があるため、事前に自分の勤務実態を確認しておくことが重要です。
育児休業給付金の計算方法と11日以上の具体的な影響
育児休業給付金の金額は、賃金月額を基に計算されます。ここでは、11日以上の要件が実際の計算にどのように影響するか、具体的な計算例を交えて詳しく解説します。
賃金日額の算出方法と11日要件
育児休業給付金の計算は、まず賃金月額を算出し、それを基に賃金日額を求め、最終的に給付金額を決定するという流れで行われます。この最初のステップである賃金月額の算出において、11日以上の要件が重要な役割を果たします。
賃金月額は、育児休業開始日の前日から遡った6か月間のうち、賃金支払基礎日数が11日以上(または80時間以上)ある月の賃金総額を、その月数で割って算出します。具体的な計算式は次の通りです。賃金月額=(11日以上ある月の賃金合計)÷(11日以上ある月の数)となります。
例えば、育児休業開始前の6か月間すべてで賃金支払基礎日数が11日以上あり、各月の賃金が25万円、26万円、24万円、25万円、27万円、26万円だった場合を考えます。賃金合計は153万円、月数は6か月なので、賃金月額は153万円÷6=25.5万円となります。
次に、賃金日額を算出します。賃金日額は、賃金月額を30で割って計算します。なぜ30で割るかというと、1か月を30日として標準化するためです。上記の例では、賃金日額=25.5万円÷30=8,500円となります。
ここで重要なのは、11日以上の要件を満たす月が6か月より少ない場合でも、同じ計算方法が用いられることです。例えば、6か月間のうち4か月だけが11日以上の要件を満たし、その4か月の賃金合計が100万円だった場合、賃金月額=100万円÷4=25万円、賃金日額=25万円÷30=約8,333円となります。
11日以上の月が少ないと、どのような影響があるでしょうか。それは、計算に含まれる月の賃金水準によって異なります。もし除外された月の賃金が、含まれた月より高かった場合、給付金額は低くなります。逆に、除外された月の賃金が低かった場合、給付金額は高くなる可能性があります。
賃金の変動が大きい職種の場合、どの月が計算対象になるかによって給付金額が大きく変わることがあります。例えば、営業職で歩合給の比重が高い場合、成績が良かった月と悪かった月で賃金に大きな差が生じます。成績が良かった月が11日以上の要件を満たし、悪かった月が満たさない場合、給付金額は高くなります。
賃金日額には上限額と下限額が設定されています。上限額は毎年8月1日に改定され、令和5年8月以降の上限額は賃金日額で15,760円です。下限額は賃金日額で2,657円です。賃金が極端に高い場合や低い場合は、これらの上限額・下限額が適用されます。
賃金月額の計算に含まれる賃金には、基本給だけでなく、各種手当も含まれます。残業手当、通勤手当、住宅手当、家族手当など、通常の給与明細に記載される手当はすべて賃金として計算されます。ただし、賞与やボーナスは原則として賃金月額の計算には含まれません。
賃金の支払いが遅延している場合の扱いも重要です。例えば、ある月に働いた分の賃金が翌月末に支払われる場合、その賃金はどの月の賃金として計算されるでしょうか。原則として、賃金の計算期間に基づいて判定されます。つまり、実際に働いた月の賃金として扱われるため、支払日が遅れていても計算に影響しません。
月の途中で賃金改定があった場合、その月の賃金はどのように計算されるでしょうか。この場合、実際に支払われた賃金の合計額がそのまま使われます。例えば、月の15日に昇給があり、前半は旧給与、後半は新給与で計算された場合、その合計額が賃金月額の計算に用いられます。
11日以上の要件を満たす月を確保するために、育児休業の開始時期を調整することも一つの方法です。例えば、産後8週間の産後休業が終了した翌日から育児休業を開始するのが一般的ですが、可能であれば賃金の高い月が計算対象に含まれるようタイミングを考慮することもできます。ただし、制度の趣旨を考えると、給付金額を最大化することだけを目的とした調整は適切ではないでしょう。
給付金額の計算例と11日以上の確認
育児休業給付金の支給額は、賃金日額に支給率を乗じて計算されます。支給率は、休業開始から180日目までは67%、181日目以降は50%です。ここでは、11日以上の要件を考慮した具体的な計算例を見ていきます。
ケース1として、育児休業開始前の6か月すべてで賃金支払基礎日数が11日以上あり、各月の賃金が一定だった場合を考えます。各月の賃金が25万円の場合、賃金月額=25万円×6÷6=25万円、賃金日額=25万円÷30=約8,333円となります。休業開始から180日目までの給付金額は、8,333円×67%=約5,583円(日額)、支給単位期間(原則1か月)あたりでは5,583円×30=約16.75万円となります。
ケース2として、6か月間のうち1か月だけ賃金支払基礎日数が11日未満だった場合を考えます。5か月分の賃金がそれぞれ25万円、26万円、24万円、25万円、27万円で合計127万円、11日未満だった1か月は除外されます。賃金月額=127万円÷5=25.4万円、賃金日額=25.4万円÷30=約8,467円となります。この場合、11日未満の月が除外されたことで、やや給付金額が高くなります。
ケース3として、6か月間のうち2か月が11日未満だった場合を考えます。4か月分の賃金がそれぞれ26万円、25万円、27万円、26万円で合計104万円の場合、賃金月額=104万円÷4=26万円、賃金日額=26万円÷30=約8,667円となります。4か月だけで計算されましたが、その4か月の賃金水準が高かったため、給付金額は比較的高くなっています。
ケース4として、産前産後休業があり、育児休業開始前の6か月間のうち3か月が産休期間で賃金が0円だった場合を考えます。この場合、産休前の3か月(賃金がそれぞれ24万円、25万円、26万円)まで遡って計算します。賃金月額=75万円÷3=25万円、賃金日額=25万円÷30=約8,333円となります。産休期間中の0円の月は自動的に除外され、産休前の賃金で計算されます。
ケース5として、時短勤務をしていた月があった場合を考えます。6か月間のうち最初の2か月は通常勤務(各25万円)、次の2か月は時短勤務(各20万円)、最後の2か月は再び通常勤務(各25万円)だったとします。すべての月で11日以上働いている場合、賃金月額=(25万円×2+20万円×2+25万円×2)÷6=23.33万円となります。時短勤務期間の低い賃金も計算に含まれるため、給付金額は通常より低くなります。
ケース6として、残業が非常に多かった月があった場合を考えます。5か月の賃金が各25万円、1か月だけ残業が多く35万円だったとします。すべて11日以上の場合、賃金月額=(25万円×5+35万円)÷6=26.67万円となります。残業が多かった月の高い賃金が平均に反映され、給付金額は高くなります。
ケース7として、80時間以上の基準を適用した場合を考えます。ある月の賃金支払基礎日数が9日で11日未満ですが、労働時間が90時間あったとします。この月の賃金が30万円だった場合、80時間以上の基準により計算対象に含めることができます。他の5か月の賃金が各25万円の場合、賃金月額=(30万円+25万円×5)÷6=26.25万円となります。80時間基準がなければこの30万円の月は除外されるため、基準の導入により給付金額が高くなるケースです。
ケース8として、入社時期が育児休業開始に近かった場合を考えます。入社1か月目は月の途中からの勤務で賃金支払基礎日数が8日(賃金15万円)、2か月目以降の5か月は11日以上(各25万円)だったとします。賃金月額=25万円×5÷5=25万円となり、入社1か月目の低い賃金は除外されます。結果として、給付金額は通常と変わらない水準になります。
これらの計算例から分かるように、11日以上の要件は単に計算対象月を決めるだけでなく、最終的な給付金額に直接影響します。特に、賃金の変動が大きい場合、どの月が計算対象に含まれるかによって給付金額が大きく変わる可能性があります。
給付金額を事前に試算したい場合は、直近6か月分の給与明細を用意し、各月が11日以上の要件を満たしているかを確認することから始めます。月給制で欠勤がなければ通常は自動的に満たしていますが、時給制や日給制、シフト制の場合は注意が必要です。要件を満たす月の賃金を合計し、その月数で割ることで賃金月額を算出できます。
実際の支給額は、支給単位期間ごとに計算されます。支給単位期間は原則として育児休業開始日から起算した1か月ごとの期間です。各支給単位期間において、賃金日額×支給日数×支給率で給付金額が計算されます。支給日数は原則30日ですが、最後の支給単位期間など一部の期間では異なることがあります。
短時間勤務者における11日以上の判定
短時間勤務をしている労働者の場合、11日以上の要件を満たすかどうかの判定が複雑になることがあります。ここでは、パートタイマーや短時間正社員など、短時間勤務者特有の状況について詳しく見ていきます。
短時間勤務者であっても、雇用保険に加入している限り、育児休業給付金の受給資格があります。雇用保険の加入要件は、週の所定労働時間が20時間以上であることなどですが、この要件を満たしていれば、勤務時間の長短に関わらず給付金を受給できます。
短時間勤務者の賃金支払基礎日数の数え方は、雇用契約の内容によって異なります。月給制の短時間正社員の場合、通常の正社員と同様に暦日数が賃金支払基礎日数となることが一般的です。例えば、週4日勤務の契約でも、月給制であれば月の暦日数(30日や31日)が賃金支払基礎日数となり、自動的に11日以上の要件を満たします。
一方、時給制のパートタイマーの場合、実際に働いた日数が賃金支払基礎日数となります。週3日勤務の場合、月に12〜13日程度しか働かないため、ギリギリ11日以上の要件を満たすか、場合によっては満たさないこともあります。特に、祝日が多い月や、病気で欠勤した月などは注意が必要です。
短時間勤務者にとって有利なのが、令和2年8月から導入された80時間以上の基準です。例えば、週3日勤務で1日8時間働いている場合、月に10日しか働いていなくても労働時間は80時間となり、算定対象に含めることができます。これにより、労働日数は少ないが労働時間は長い働き方をしている方も、適切に評価されるようになりました。
逆に、労働日数は多いが1日の労働時間が短い場合は、80時間基準の恩恵を受けにくくなります。例えば、週5日勤務だが1日3時間の場合、月に20日働いても労働時間は60時間程度となり、80時間に達しません。この場合、11日以上の基準で判定されることになります。
育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度を利用していた場合も、11日以上の要件判定に影響します。例えば、第一子の育児のために短時間勤務制度を利用していたが、第二子の妊娠により育児休業を取得するケースが考えられます。短時間勤務期間中の賃金は通常勤務時より低くなっていますが、11日以上働いていれば計算対象に含まれます。
シフト制で働いている短時間勤務者の場合、月によって勤務日数が大きく変動することがあります。繁忙期には15日以上働いても、閑散期には8日しか働けないといった状況が生じます。育児休業開始前の6か月間にどのような時期が含まれるかによって、11日以上の月の数が変わってきます。
複数の事業所でパートを掛け持ちしている場合、それぞれの事業所ごとに雇用保険に加入しているかを確認する必要があります。原則として、雇用保険は主たる事業所でのみ加入することになっています。育児休業給付金も、主たる事業所での賃金を基に計算されます。副業先での勤務日数や賃金は、11日以上の判定や給付金額の計算には含まれません。
学生アルバイトから正社員に転換した場合など、雇用形態が変更された場合の扱いも重要です。雇用保険に加入していなかった期間は、育児休業給付金の計算対象になりません。正社員になって雇用保険に加入してからの期間だけが計算対象となります。ただし、受給資格要件を満たすためには、育児休業開始前2年間に11日以上の月が12か月以上必要ですので、正社員期間が短い場合は注意が必要です。
派遣労働者の場合、派遣先が変わっても派遣元の雇用保険に継続加入していれば、育児休業給付金の受給資格があります。賃金支払基礎日数の判定も、派遣元から支払われる賃金を基に行われます。派遣先での実際の勤務日数と派遣元からの賃金支払の基礎となった日数が一致するかを確認することが重要です。
有期雇用労働者(契約社員やパートタイマー)の場合、育児休業を取得するためには一定の要件を満たす必要がありますが、要件を満たせば育児休業給付金も受給できます。11日以上の判定方法は、無期雇用労働者と同様です。ただし、契約更新のタイミングと育児休業の開始時期が重なる場合、契約が更新されるかどうかが不確実な場合は、事前に確認しておくことが重要です。
短時間勤務者の場合、賃金が低いため給付金額も少なくなる傾向にあります。しかし、給付金の下限額が設定されているため、極端に低い金額になることはありません。賃金日額が2,657円未満の場合、2,657円として計算されます。これにより、最低限の給付金は保障されています。
短時間勤務者が給付金額を試算する際には、直近6か月分の給与明細と勤怠記録を照らし合わせ、各月の賃金支払基礎日数または労働時間を確認することが重要です。特に、シフト制や不定期勤務の場合は、どの月が計算対象になるかを正確に把握することで、より正確な給付金額の見込みを立てることができます。
まとめ
育児休業給付金の計算と11日以上の要件についてのまとめ
今回は育児休業給付金の計算と11日以上の要件についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・育児休業給付金の金額は育児休業開始前の賃金を基に計算され、賃金支払基礎日数が11日以上という要件が重要な判定基準となる
・賃金支払基礎日数とは賃金計算の対象となった日数であり、月給制では暦日数、時給制・日給制では実労働日数が該当する
・養育費算定表では子どもの年齢を0歳から14歳と15歳以上に区分しており、15歳以上の方が高額に設定される
・令和2年8月以降は賃金支払基礎日数が11日未満でも労働時間が80時間以上あれば算定対象となる新基準が導入された
・賃金月額は育児休業開始前6か月間のうち11日以上(または80時間以上)ある月の賃金総額をその月数で割って算出する
・11日以上の要件を満たさない月は計算対象から除外されるが、それによって給付金が受給できなくなるわけではない
・産前産後休業期間中は賃金が支払われないため、その期間は除外され産休前の期間まで遡って計算される
・有給休暇は賃金支払基礎日数に含まれるが、無給の欠勤は含まれないため11日以上の判定に影響する
・育児休業給付金の支給率は休業開始から180日目までが67%、181日目以降が50%である
・賃金日額は賃金月額を30で割って算出され、その賃金日額に支給率を乗じて給付金額が決定される
・短時間勤務者の場合、月給制であれば暦日数が賃金支払基礎日数となり11日以上を自動的に満たすことが多い
・時給制のパートタイマーは実労働日数が11日以上あるかを確認する必要があり、80時間以上の基準も活用できる
・残業代や各種手当も賃金に含まれるが、賞与やボーナスは原則として賃金月額の計算には含まれない
・給付金額を事前に試算するには直近6か月分の給与明細で各月が11日以上の要件を満たしているか確認することが重要である
・育児休業給付金の受給資格要件として育児休業開始前2年間に11日以上の月が通算12か月以上必要である
育児休業給付金の計算における11日以上の要件は、給付金額を決定する重要な基準です。特に、短時間勤務やシフト制で働いている方、産前産後休業から引き続き育児休業を取得する方は、どの月が計算対象になるかを事前に確認しておくことをお勧めします。適切な知識を持つことで、安心して育児休業を取得し、給付金を活用することができるでしょう。

コメント