近年、自治体や企業が育児休業を取得した社員や保護者に対して「子育て感謝状」を贈呈する取り組みが増えています。この制度は、子育てをする親への感謝の気持ちを表すとともに、子育てを社会全体で応援するメッセージを伝えることを目的としています。しかし、その一方で「子育て感謝状はいらない」という声も少なくありません。
子育て感謝状を不要だと感じる人たちからは、「形式的で実質的な支援にならない」「母親だけに贈られることが多く、ジェンダーバイアスを助長する」「感謝されるべきは親ではなく社会の責任だ」といった意見が寄せられています。特にSNSなどでは、この制度に対する批判的な投稿が話題になることもあり、子育て支援のあり方について議論が交わされています。
その一方で、子育て感謝状を肯定的に捉える意見も存在します。「子育ての大変さを認めてもらえることが嬉しい」「地域や職場から応援されていると感じられる」といった声もあり、制度の受け止め方は人によって大きく異なります。
本記事では、子育て感謝状がいらないと言われる理由、賛成派と反対派それぞれの意見、そして今後の子育て支援のあり方について、多角的な視点から詳しく解説していきます。子育て中の方はもちろん、人事担当者や自治体関係者、子育て支援に関心のある方にとっても参考になる情報を幅広くお届けします。
子育て感謝状がいらないと言われる理由
子育て感謝状に対して否定的な意見を持つ人が一定数いることは、様々な調査やSNSでの反応から明らかになっています。ここでは、なぜ子育て感謝状がいらないと言われるのか、その背景にある具体的な理由について掘り下げていきます。
子育て感謝状とは何か
子育て感謝状とは、自治体や企業が子育てをしている保護者に対して贈る表彰状や感謝状のことを指します。この制度は、子育ての大変さを社会が認識し、子育てをする親を応援する姿勢を示すために導入されました。
具体的には、育児休業から復帰した社員に対して企業が贈呈するケース、第三子以降を出産した家庭に自治体が贈るケース、保育園や幼稚園の卒園式で保護者に贈られるケースなど、さまざまな形態があります。感謝状には、子育てへの感謝の言葉とともに、地域や職場からの応援メッセージが記されていることが一般的です。
この制度が広まった背景には、少子化対策と子育て支援の機運の高まりがあります。政府や自治体が子育てしやすい社会づくりを推進する中で、精神的な支援として子育て感謝状が注目されるようになりました。特に2010年代以降、ワークライフバランスの重要性が認識されるようになり、企業でも育児休業取得者を称える取り組みが増加しました。
子育て感謝状の内容は発行元によって異なりますが、一般的には「子育てという大切な役割を担っていただき感謝します」といった文言が記されています。また、自治体によっては、感謝状とともに記念品や商品券などを贈呈するところもあります。
しかし、この制度の趣旨や内容については、当事者である子育て世代から様々な意見が出ており、必ずしも歓迎されているわけではありません。特に形式的な取り組みに見えることや、実質的な支援につながらないことへの不満の声が大きくなっています。
形式的だと感じる声
子育て感謝状がいらないと言われる最も大きな理由の一つが、「形式的で実質的な支援にならない」という点です。多くの批判的な意見の中で、この指摘は特に頻繁に見られます。
子育て中の保護者が本当に必要としているのは、感謝状という紙切れではなく、具体的な経済的支援や制度の充実だという声が多数あります。たとえば、保育園の待機児童問題の解消、児童手当の増額、育児休業給付金の拡充、学童保育の充実、医療費助成の拡大といった実質的な支援策を求める意見が強いのです。
ある調査では、子育て感謝状を受け取った保護者の約6割が「嬉しいが実質的な支援も欲しい」と回答し、約2割が「特に嬉しくない」と答えたというデータもあります。感謝状の作成や贈呈にかかる予算があるなら、それを直接的な子育て支援に回してほしいという意見も少なくありません。
特に、自治体が子育て感謝状を贈呈する一方で、保育園の整備が遅れていたり、子育て支援サービスが十分でなかったりする場合、保護者からは「感謝状よりも保育園を増やしてほしい」という声が上がります。形だけの支援に見えてしまい、かえって行政への不信感を招くケースもあるのです。
また、企業が育児休業取得者に感謝状を贈る場合も同様です。感謝状を贈る一方で、育児休業中の代替要員を確保しなかったり、復帰後の時短勤務制度が不十分だったりすると、従業員からは「感謝状よりも働きやすい環境を整えてほしい」という不満が出ます。
さらに、感謝状の贈呈式が開催される場合、仕事や育児で忙しい保護者にとっては出席すること自体が負担になることもあります。形式的なセレモニーのために時間を割くよりも、その時間を子どもと過ごしたいという意見もあり、制度そのものが当事者の気持ちとズレていると指摘されています。
母親への負担を懸念する意見
子育て感謝状がいらないと言われる理由として、ジェンダーの問題も大きく関わっています。特に、感謝状が母親のみに贈られるケースが多いことに対する批判が強くあります。
多くの自治体や保育園では、感謝状を母親に贈ることが慣例化しています。卒園式などで「お母さんへの感謝状」として贈呈されることがあり、これに対して「父親の存在が無視されている」「母親だけが子育ての責任を負っているという前提がおかしい」という指摘があります。
このような慣習は、「子育ては母親の役割」という固定観念を強化し、ジェンダーバイアスを助長する恐れがあります。父親も同様に子育てに関わっているにもかかわらず、感謝状が母親のみに贈られることで、「子育ての主体は母親である」というメッセージを社会に発信してしまうのです。
また、母親に感謝状を贈ることで、「母親は子育てを頑張って当然」「子育てで感謝されることは名誉なこと」という価値観を押し付けているという批判もあります。子育ては親の権利であり責任でもありますが、それを「感謝される特別な行為」として位置づけることに違和感を覚える人もいます。
さらに、シングルファーザーや同性カップル、祖父母が養育者である家庭など、多様な家族形態が存在する中で、「母親への感謝状」という枠組み自体が時代に合わなくなっているという指摘もあります。家族のあり方が多様化している現代において、特定の形態を前提とした制度は見直すべきだという声が高まっています。
企業における育児休業取得者への感謝状についても同様の問題があります。育児休業を取得するのは圧倒的に女性が多いため、結果として感謝状を受け取るのも女性ばかりになります。これは、男性の育児休業取得率の低さという根本的な問題を隠蔽し、「育児休業は女性が取るもの」という認識を固定化する恐れがあるのです。
価値観の多様化による影響
子育て感謝状への賛否が分かれる背景には、子育てに対する価値観の多様化があります。現代社会では、子育ての意義や親としての役割について、人によって考え方が大きく異なります。
かつての日本社会では、「子どもを育てることは親の義務であり、社会から称賛されるべき行為」という価値観が広く共有されていました。しかし、現代では「子育ては個人の選択であり、特別に感謝されるべきものではない」と考える人も増えています。このような価値観の変化が、子育て感謝状への抵抗感につながっているのです。
特に若い世代では、「子どもを産むか産まないかは個人の自由」「子育ては親が自らの意思で選択した責任」という考え方が強くなっています。そのような価値観を持つ人にとって、子育てに対して社会から感謝されることに違和感を覚えるのは自然なことかもしれません。
また、子育てを「社会への貢献」として評価することに対する批判もあります。「子どもを産み育てることで少子化対策に貢献している」という論理は、子どもを社会の人的資源として見なす考え方であり、子ども自身の人格や尊厳を軽視しているという指摘です。子育て感謝状が、このような功利主義的な子育て観を助長すると懸念する声もあります。
さらに、子育て感謝状の存在が、子どもを持たない選択をした人や、子どもを持ちたくても持てない人に対して、暗に圧力をかけているという意見もあります。「子育てをすることが称賛される」というメッセージは、裏を返せば「子どもを持たないことは望ましくない」というメッセージとも受け取られかねません。
一方で、「子育ての大変さを社会が認めてくれることは重要」「孤立しがちな子育て中の親を応援する意味がある」と考える人もいます。価値観が多様化した社会では、一つの制度に対して肯定的な意見と否定的な意見が共存するのは当然のことであり、それぞれの意見を尊重しながら制度を見直していく必要があります。
子育て感謝状いらない派と必要派の意見
子育て感謝状については、いらないと考える人と必要だと考える人の間で意見が分かれています。ここでは、それぞれの立場からの具体的な主張を紹介し、なぜ意見が対立するのかを考察していきます。
いらない派の具体的な主張
子育て感謝状がいらないと主張する人たちの意見には、いくつかの共通したポイントがあります。これらの主張を理解することで、なぜこの制度に対して否定的な反応が生まれるのかが見えてきます。
まず、最も強い主張は「実質的な支援にならない」という点です。子育て中の家庭が直面している問題は、経済的な負担、保育園不足、職場での理解不足、ワンオペ育児の孤立など、具体的で切実なものです。感謝状という精神的な支援だけでは、これらの問題は何も解決しないという指摘です。
具体的には、「感謝状を作る予算があるなら児童手当を増額してほしい」「感謝状よりも保育園の待機児童をゼロにしてほしい」「感謝状よりも学童保育を充実させてほしい」といった声が多く聞かれます。子育て支援の優先順位として、形式的な表彰よりも実質的な支援が先だという考え方です。
次に、「子育てを特別視することへの違和感」という意見があります。子どもを育てることは親の責任であり権利でもありますが、それを社会から感謝される特別な行為として扱われることに抵抗感を持つ人がいます。「自分で選んで子どもを産んだのだから、感謝されるのは筋違い」という意見や、「子育てを頑張っているのは当たり前のことで、わざわざ感謝状をもらうほどのことではない」という声もあります。
また、「パフォーマンスに見える」という批判もあります。特に、選挙前に自治体が子育て感謝状の制度を導入したり、企業がダイバーシティ推進のアピールとして感謝状を贈呈したりするケースでは、「本気で子育て支援を考えているのではなく、イメージアップのためのパフォーマンスではないか」という疑念を持つ人もいます。
さらに、「もらっても処分に困る」という実務的な問題を指摘する声もあります。感謝状をもらっても飾る場所がなかったり、保管に困ったりして、結局は処分することになるという意見です。記念品としての価値を感じられない人にとっては、感謝状は不要なものでしかありません。
加えて、「子育ては社会全体の責任であり、親が感謝されるべきではない」という考え方もあります。子どもは社会の未来を担う存在であり、子育ては親だけの責任ではなく社会全体で支えるべきものです。そのような視点から見ると、親に感謝状を贈るという発想自体が間違っており、むしろ社会が親を支援する責任があるという主張です。
SNSなどでは、「#子育て感謝状いらない」というハッシュタグで意見が共有されることもあり、同じような考えを持つ人たちが共感し合う場が形成されています。これらの意見は、決して子育て支援そのものを否定しているわけではなく、より実効性のある支援を求める声として理解する必要があります。
必要だと考える人の意見
一方で、子育て感謝状を肯定的に捉える人たちも少なくありません。これらの人々は、感謝状が持つ精神的な意義や、子育てを応援するメッセージとしての価値を重視しています。
まず、「子育ての大変さを認めてもらえることが嬉しい」という意見があります。子育ては24時間365日続く大変な仕事であり、その苦労が周囲から理解されないことも多くあります。感謝状を受け取ることで、「自分の頑張りを社会が認めてくれている」と感じられることは、精神的な支えになるという声です。
特に、孤立しがちな専業主婦(主夫)や、ワンオペ育児をしている親にとって、社会からの承認は大きな意味を持ちます。誰からも評価されず、感謝もされない日々の中で、感謝状という形であっても「ありがとう」と言われることは、心の支えになるという意見があります。
また、「地域や職場とのつながりを感じられる」という点も評価されています。感謝状を贈ることで、「地域や職場があなたの子育てを応援しています」というメッセージが伝わり、孤独感が和らぐという効果があるという意見です。子育ては孤独な作業になりがちですが、社会全体で支えているという姿勢を示すことには意義があるという考え方です。
さらに、「記念になる」という実用的な価値を見出す人もいます。特に保育園や幼稚園の卒園時に贈られる感謝状は、子どもの成長の記録として保管する価値があるという意見です。何年か後に見返したときに、子育てを頑張った時期を思い出す良いきっかけになるという声もあります。
企業が育児休業取得者に感謝状を贈る取り組みについても、肯定的な意見があります。「育児休業を取得することを会社が応援してくれていると感じられた」「復帰後も子育てと仕事の両立を支援してくれるという姿勢が伝わった」といった声があり、職場の雰囲気づくりに貢献しているという評価です。
また、「実質的な支援と精神的な支援は両方必要」という意見もあります。確かに経済的支援や制度の充実は重要ですが、それだけでは足りず、精神的な支えも必要だという考え方です。感謝状は実質的な支援ではありませんが、心の支えとしての価値はあるという主張です。
さらに、「子育て支援への関心を高める効果がある」という意見もあります。自治体や企業が感謝状を贈ることで、子育て支援の重要性を社会に発信し、子育てに対する理解を深めるきっかけになるという考え方です。完璧な制度ではなくても、第一歩として意義があるという評価です。
このように、子育て感謝状を必要だと考える人たちは、精神的な価値や象徴的な意味を重視しています。実質的な支援とは異なる次元での支援として、感謝状の役割を認めているのです。
職場や自治体の対応の変化
子育て感謝状に対する賛否両論の声を受けて、職場や自治体の対応にも変化が見られるようになってきました。ここでは、実際にどのような見直しや改善が行われているのかを紹介します。
一部の自治体では、子育て感謝状の制度を見直したり、廃止したりする動きが出ています。保護者からの批判的な意見を受けて、「形式的な支援よりも実質的な支援に予算を回すべき」という判断から、感謝状の贈呈を取りやめた自治体もあります。その代わりに、保育サービスの充実や児童手当の増額など、より直接的な支援策に力を入れる方針に転換しています。
また、感謝状の内容や贈呈方法を改善する自治体も増えています。たとえば、「母親への感謝状」ではなく「保護者への感謝状」として父親や祖父母も含めた形にする、感謝状だけでなく実用的な記念品や商品券を添えるなど、当事者の声を反映した改善が行われています。
企業においても、育児休業取得者への対応に変化が見られます。感謝状の贈呈だけで終わらせるのではなく、復帰後のキャリア支援や時短勤務制度の拡充など、実質的なサポート体制を整える企業が増えています。また、感謝状を贈る場合でも、本人の希望を確認し、望まない場合は贈呈しないという配慮をする企業もあります。
さらに、男性の育児休業取得を促進する取り組みとセットで感謝状を贈る企業も出てきました。男性の育児休業取得率を上げることで、「子育ては女性だけの役割」という固定観念を打破し、感謝状が持つジェンダーバイアスの問題を解消しようとする試みです。
保育園や幼稚園においても、卒園式での感謝状の贈呈方法に工夫が見られるようになりました。「お母さんへの感謝状」ではなく「家族への感謝状」とする、子どもから親へのメッセージカードと合わせて贈るなど、より家族全体を尊重する形式に変更する園が増えています。
一方で、感謝状の制度を継続しながらも、実質的な支援も同時に充実させる自治体や企業もあります。感謝状という精神的な支援と、経済的支援や制度面での支援を両輪として進める方針です。この場合、感謝状は子育て支援の一環として位置づけられ、他の支援策と合わせて総合的なサポート体制が構築されます。
また、当事者の意見を聞く仕組みを設ける動きも広がっています。自治体がアンケートやヒアリングを実施して保護者のニーズを把握したり、企業が従業員との対話を通じて本当に必要な支援を探ったりする取り組みが行われています。形式的な支援ではなく、当事者が本当に求める支援を提供するための努力が続けられているのです。
このように、子育て感謝状をめぐる議論は、子育て支援のあり方を見直すきっかけとなっています。賛否両論の声を受け止めながら、より良い支援策を模索する動きが各地で進んでいます。
子育て感謝状がいらないかどうかについてのまとめ
子育て感謝状いらない論についての総括
今回は子育て感謝状がいらないという意見とその背景についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・子育て感謝状は自治体や企業が保護者に贈る表彰状で子育て支援の一環として導入された
・いらないという意見の最大の理由は形式的で実質的な支援にならないという点である
・感謝状の予算を保育園整備や児童手当など直接的な支援に回してほしいという声が多い
・母親のみに贈られるケースが多くジェンダーバイアスを助長するという批判がある
・子育ては親の責任であり特別に感謝される行為ではないという価値観の変化がある
・多様な家族形態が増える中で母親への感謝状という枠組み自体が時代に合わなくなっている
・必要派は子育ての大変さを認めてもらえることや地域とのつながりを感じられる点を評価する
・精神的な支えとしての価値や記念品としての意義を見出す人もいる
・一部の自治体では批判を受けて感謝状制度を廃止し実質的支援に予算を振り向けている
・感謝状の内容を「母親」から「保護者」に変更するなど改善する動きもある
・企業では感謝状に加えて復帰後のキャリア支援や時短勤務制度を充実させる取り組みが増えている
・男性の育児休業取得促進とセットで進めることでジェンダーバイアス解消を図る企業もある
・当事者の意見を聞く仕組みを設けて本当に必要な支援を探る動きが広がっている
・子育て感謝状をめぐる議論は子育て支援全体のあり方を見直すきっかけとなっている
子育て感謝状については、いらないという意見も必要だという意見も、どちらも子育て中の保護者の切実な思いから生まれています。重要なのは、形式的な支援に終わらせず、当事者が本当に必要としている支援を提供することです。賛否両論の声に耳を傾けながら、より良い子育て支援のあり方を社会全体で考えていくことが求められています。

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