「転勤族の家庭はお金持ちが多い」「転勤を繰り返している人はそれなりに稼いでいるはず」——こうしたイメージを持っている方は、意外と多いのではないでしょうか。転勤族とは、会社の辞令によって全国各地、あるいは海外を転々と移り住む生活を続けているビジネスパーソンとその家族のことを指します。転勤族に対しては「大企業に勤めている」「収入が高い」「各種手当が充実している」といったポジティブなイメージが付きまとうことがありますが、果たしてその実態はどうなのでしょうか。
転勤族が金持ちかどうかという問いに対する答えは、一概にYESとも NOとも言い切れません。たしかに転勤を命じられるような大企業勤務者には収入水準が高い人も多く、各種手当によって一時的に可処分所得が増えることもあります。しかし一方で、転勤に伴う出費や生活コストの増加、家族のキャリア喪失による世帯収入の低下など、金持ちどころか家計が圧迫されるリスクも少なくありません。
この記事では、転勤族が金持ちといわれる背景にある根拠と、実際の経済的な実態を多角的に検証します。転勤族の収入・手当・生活コストのリアルを知りたい方にとって、参考になる情報を幅広くお届けします。
転勤族が金持ちといわれる背景にある理由を検証する
転勤族にお金持ちが多いというイメージはどこから来ているのでしょうか。その根拠として考えられる要因を、具体的に掘り下げていきます。
転勤族の多くが大企業・安定企業に勤めているという実態
転勤族が金持ちというイメージの最も根本的な根拠は、転勤を命じる側の企業規模にあります。全国規模・全世界規模での転勤を実施している企業の多くは、大手メーカー・金融機関・商社・インフラ企業・官公庁などに集中しています。これらの企業は一般的に給与水準が高く、福利厚生が充実しており、雇用の安定性も高い傾向にあります。
国税庁の民間給与実態統計調査によれば、従業員数が多い大企業ほど平均給与が高い傾向は明確であり、従業員が5,000人以上の企業では平均給与が中小企業と比較して大幅に高くなっています。転勤族の多くがこうした大企業に属していることは、転勤族イコール高収入というイメージを生む大きな要因となっています。
また、転勤を命じられる立場の社員は、会社から「将来の幹部候補」「重要な人材」として認識されているケースも少なくありません。全国の拠点を経験させることでマネジメント能力を育てる目的で転勤が活用されることもあり、転勤族のキャリアパスは管理職・役員への昇進と結びついていることがあります。つまり、転勤族には将来的に高収入へつながる立場の人が多いという面も否定できません。
転勤に伴う各種手当が可処分所得を一時的に押し上げる
転勤族が金持ちに見える理由のひとつとして、転勤に伴う各種手当の存在があります。多くの企業では、転勤を命じた社員に対してさまざまな名目の補助を提供しています。代表的なものとしては、転居費用の会社負担、赴任支度金、引っ越し費用の全額支給、赴任先での住宅手当や社宅の提供、帰省交通費の支給などが挙げられます。
こうした手当によって、転勤直後は「家賃が格安で済む」「生活費の一部が会社負担になる」という状況が生まれます。特に都市部の高額な家賃を会社が負担してくれる場合、本来であれば月々十数万円かかる住居費がほとんどかからない状態になることがあります。この結果、手取り収入のうち自由に使える割合が高くなり、周囲から見ると「お金に余裕がある」ように映ることがあります。
また、海外転勤の場合は国内転勤よりもさらに手厚い補助が出るケースが多く、海外赴任手当・ハードシップ手当・子弟の学費補助・現地住宅の提供などが加算されることがあります。海外駐在員として赴任している期間は、国内での生活と比較して実質的な収入が大幅に増加するケースも多く、海外転勤経験者が「あの頃は裕福だった」と回顧するケースも見られます。
転勤族のライフスタイルが「豊かさ」を演出しているケース
転勤族が金持ちに見えるもうひとつの側面として、そのライフスタイルが視覚的に「豊かさ」を演出しやすいという点があります。転勤族は各地で新しい生活をスタートするたびに家電・家具・日用品などを購入・更新することが多く、常に「新しいもの」に囲まれた生活環境を持つ傾向があります。また、さまざまな地域に住んできた経験から、各地のグルメ・文化・観光スポットに詳しく、話題の幅が広いという特徴もあります。
さらに、会社の福利厚生として提供される社宅や借り上げマンションは、一般の賃貸物件と比較してグレードの高いものが多い場合があります。転勤族家庭の住居が比較的良い立地・広さ・設備であることが多いという点も、「お金持ちの家庭」というイメージを周囲に与える要因となっています。
加えて、転勤族の家庭では配偶者がパートや副業の形で働いていることが多いため、二人分の収入が家計を支えている実態もあります。世帯収入として見たときに、一定以上の生活水準を維持できているケースが多い点も、転勤族が豊かに見える背景の一端を担っています。
転勤によるキャリアアップが長期的な高収入につながる場合
転勤族が長期的に見て金持ちになりやすいという側面も、一部には存在します。先述のように、転勤を重ねることでさまざまな業務・地域・人材を経験した社員は、会社の中で「多様な経験を持つ幹部候補」として認識されやすい傾向があります。こうした経験が管理職・役員への昇進につながれば、年収は大幅に上昇します。
日本の大企業では、役員や上級管理職になると年収が1,000万円を超えるケースも珍しくありません。転勤を辞令通りにこなしてきた「会社への忠誠心」が昇進評価に影響するという慣行が残っている企業においては、転勤を重ねてきた社員が最終的に高いポストに就くことで、長期的な収入の高さにつながっていることがあります。
また、海外赴任経験者はグローバルなビジネス知識・語学力・異文化対応力を持つ人材として市場価値が高まり、転職時に高い評価を受けることもあります。転勤族としての経験が、将来的な年収アップの土台になっているというケースも確かに存在します。
転勤族が実際には金持ちとはいえない理由と経済的な実態
転勤族には金持ちというイメージがある一方で、実態を詳しく見ていくと、必ずしも経済的に恵まれているとは言えない側面が多く存在します。
転勤にかかる見えない出費が家計を圧迫する現実
転勤には、会社が負担する費用以外にもさまざまな自己負担が発生します。引っ越しのたびに発生する細かな費用——近隣への挨拶品、新居での備品の買い足し、カーテンや照明の交換、不用品の処分費用など——は積み重なると相当な金額になります。会社の補助が十分でない場合は、こうした費用が自腹になることも少なくありません。
また、転勤を繰り返す家庭では「持ち家を持ちにくい」という大きな問題があります。同じ場所に長期間住み続けることを前提として組まれる住宅ローンは、転勤族にとっては非常に計画が立てにくいものです。賃貸生活を続けることで家賃を払い続けるリスクがある一方、持ち家を購入した後に転勤が命じられれば、空き家管理・賃貸運用・売却などの選択を迫られることになります。老後の住居を確保するという観点から、転勤族は同年代の非転勤者と比較して資産形成が遅れがちになるというリスクがあります。
さらに、転勤のたびに自動車を売却・購入するコストや、地域によって異なる生活費水準への対応なども家計を揺さぶる要因です。たとえば物価の高い都市部への転勤では、同じ生活水準を維持するだけで出費が増加します。会社からの手当が物価差を完全に補填しない場合、実質的な生活の豊かさは低下します。
配偶者のキャリア喪失による世帯収入の減少
転勤族家庭において見逃せない経済的な問題が、配偶者のキャリア喪失による世帯収入の低下です。共働きが標準となった現代において、配偶者が転勤に帯同するために仕事を辞めざるを得ない状況は、家庭全体の年収に直接的なダメージを与えます。
たとえば、夫婦それぞれが年収400万円ずつ稼いでいた世帯が転勤によって妻(または夫)が退職した場合、世帯年収は一気に半減することになります。転勤した本人の年収がそれなりに高くても、配偶者の収入ゼロが続けば、世帯全体の経済力は著しく低下します。転勤先での再就職が難しければ、長期にわたって配偶者が専業主婦(主夫)状態を余儀なくされることもあります。
また、配偶者が再就職できたとしても、非正規雇用やパートタイム勤務にとどまるケースは多く、以前の正規雇用と同等の収入を得られるとは限りません。厚生労働省の調査においても、転勤を繰り返す世帯の配偶者における非正規雇用率の高さが指摘されており、これが世帯収入の格差につながっています。転勤族本人の収入が高くても、配偶者の収入が大幅に低ければ、実際の家計は豊かとは言えない状態になることがあります。
子どもの教育費や単身赴任コストが家計を圧迫する
転勤族家庭では、子どもの教育にまつわるコストが一般家庭と比較して高くなる傾向があります。転校を繰り返すことで、子どもの学習の継続性が失われることを懸念する親が、塾や家庭教師などの補習費用を多めに投入するケースがあります。また、受験のタイミングでは転校を避けるために子どもだけを祖父母宅などに預けるという選択を取る家庭もあり、こうした費用は通常の教育費に上乗せされます。
さらに、家族を残して単身赴任を選んだ場合には、前述のように住居費の二重発生や帰省費用が家計に重くのしかかります。週末ごとに帰省すれば、交通費だけで月に数万円単位の出費が生じることもあります。単身赴任先での食費・光熱費・消耗品費なども積み重なれば、年間で見た場合の追加出費は相当な金額になります。
こうした見えにくい出費の積み重ねが、転勤族家庭の実質的な経済的豊かさを想像よりも低いものにしている現実があります。収入の数字だけを見れば高いように映っても、実際の手残りや資産形成のスピードを非転勤者と比較した場合、必ずしも転勤族が金持ちとは言えないというのが実態に近いと言えます。
転勤族と金持ちのイメージのギャップを正しく理解するまとめ
転勤族と金持ちの実態についてのまとめ
今回は転勤族が金持ちといわれる理由と、その経済的な実態についてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・転勤族に金持ちが多いというイメージは、大企業・安定企業に勤めている人が多いことに起因している
・大企業は給与水準が高く福利厚生が充実しているため、転勤族イコール高収入というイメージが生まれやすい
・転居費用・赴任支度金・住宅手当など転勤に伴う各種手当が、一時的に可処分所得を押し上げることがある
・海外赴任の場合は手当がさらに手厚く、駐在期間中は実質収入が国内比で大幅に増えるケースもある
・会社提供の社宅や借り上げマンションのグレードが高い場合、外見上「豊かな生活」に映ることがある
・転勤を重ねた経験が管理職・役員への昇進につながれば、長期的に高収入を得られる可能性がある
・引っ越しのたびに発生する細かな自己負担費用が積み重なり、見えない出費として家計を圧迫する
・転勤族は持ち家を持ちにくく、老後に向けた資産形成が非転勤者と比べて遅れがちになるリスクがある
・共働き世帯では配偶者が帯同退職することで世帯収入が大幅に減少し、家計全体の豊かさが低下する
・転勤先で配偶者が再就職しても非正規雇用にとどまることが多く、以前の収入水準を取り戻しにくい
・子どもの学習継続性を補う塾・家庭教師などの教育費が、一般家庭より増える傾向がある
・単身赴任を選んだ場合は住居費の二重発生・帰省費用・単身生活費が重なり、家計の負担が増大する
・手当込みの収入は高く見えても、諸費用を差し引いた「手残り」は想定より少ないケースが多い
・転勤族が金持ちかどうかは、企業規模・役職・家族構成・転勤頻度などによって大きく異なる
転勤族が金持ちというイメージは、一部の側面を切り取ったものに過ぎず、実際の家計の全体像を見ると必ずしも豊かとは言い切れないことがよくわかります。収入の高さと生活の豊かさは必ずしも一致せず、転勤に伴う特有のコストや家族への影響を考慮すると、経済的な実態は人によって大きく異なります。転勤族の生活を正確に理解するためには、表面的なイメージではなく収支の実態を多角的に見ていくことが大切です。

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