育児休業給付金は、育児休業を取得する労働者にとって重要な収入保障制度です。しかし、現在の制度では賃金日額に上限が設定されており、高年収の方ほど実質的な給付率が下がってしまうという課題があります。特に男性の育児休業取得を促進する観点から、この上限額の引き上げを求める声が高まっています。
現在の上限額は、30歳以上45歳未満で賃金日額16,530円(2024年8月時点)となっており、年収600万円程度から上限の影響を受け始めます。この水準は、日本の平均年収を上回る労働者にとっては、育児休業取得の大きな障壁となっているのが実情です。
政府は「異次元の少子化対策」を掲げ、育児休業の取得促進に力を入れていますが、給付金の上限引き上げについては慎重な姿勢を崩していません。一方で、経済界や労働団体からは、制度改正を求める提言が相次いでいます。
本記事では、育児休業給付金の上限引き上げに関する現状、議論の背景、今後の見通しについて幅広く調査した内容をお伝えします。制度改正の可能性や、上限引き上げがもたらす影響について詳しく解説していきます。
育児休業給付金の上限引き上げに関する現状とは?
育児休業給付金の上限引き上げについて、まず現在の制度の概要と課題を整理しましょう。なぜ上限の引き上げが求められているのか、その背景にある社会的な要因や、諸外国の制度との比較について詳しく見ていきます。
現在の上限額と制度の概要
育児休業給付金の上限額は、雇用保険の基本手当日額の上限と連動しており、年齢区分ごとに設定されています。2024年8月1日時点での上限額を確認すると、30歳未満は13,890円、30歳以上45歳未満は16,530円、45歳以上60歳未満は18,180円、60歳以上65歳未満は16,530円となっています。
この上限額は毎年8月1日に見直されますが、その改定幅は前年度の平均給与の増減率に応じて決まるため、大幅な引き上げは行われていません。過去10年間の推移を見ても、年間で数百円程度の増額にとどまっており、賃金上昇率とほぼ同じペースでの引き上げとなっています。
最も育児休業取得者が多い30歳以上45歳未満の年齢層では、賃金日額16,530円が上限です。これは月額換算で約33万円(休業開始から180日間の67%給付時)となります。年収に換算すると、約600万円から上限の影響を受け始め、それ以上の年収では実質的な給付率が67%を下回ることになります。
給付金の計算方法は、休業開始前6か月間の賃金を180で割った賃金日額に、給付率(休業開始から180日間は67%、それ以降は50%)をかけたものです。賞与は賃金日額の計算に含まれないため、賞与の割合が大きい企業に勤める方は、実質的な給付率がさらに低くなる傾向があります。
現在の上限額の水準は、日本の労働者全体から見れば中程度の年収層をカバーしていますが、育児期にある30代後半から40代の労働者、特に男性の平均年収を考えると、決して高い水準とは言えません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、40代前半の男性正社員の平均年収は約550万円から600万円程度であり、多くの男性労働者が上限の影響を受ける可能性があります。
さらに、大企業や専門職では年収800万円以上の労働者も珍しくなく、このような高年収層では実質的な給付率が40%から50%程度まで低下します。育児休業を取得することで、月に20万円から30万円以上の収入減となるケースもあり、経済的な理由から育児休業の取得を躊躇する要因となっています。
上限額の設定は、雇用保険財政の健全性を保つという目的もありますが、一方で育児休業の取得促進という政策目標とのバランスが課題となっています。特に男性の育児休業取得率を引き上げるためには、上限額の見直しが避けられないという指摘が、専門家や労働団体から繰り返し出されています。
上限引き上げが議論される背景
育児休業給付金の上限引き上げが議論される背景には、いくつかの重要な社会的要因があります。最も大きな要因は、男性の育児休業取得率の低さです。厚生労働省の調査によれば、2022年度の男性の育児休業取得率は17.13%にとどまっており、女性の80.2%と比べて大きな開きがあります。
政府は2025年までに男性の育児休業取得率を30%に引き上げる目標を掲げていますが、現状のペースでは達成が困難な状況です。男性が育児休業を取得しない理由として、「職場の雰囲気」「キャリアへの影響」とともに、「収入減少への不安」が常に上位に挙げられています。
特に世帯主として家計を支えている男性にとって、育児休業中の収入減少は深刻な問題です。住宅ローンや教育費などの固定支出がある中で、月に10万円以上の収入減となる場合、家計のやりくりが困難になるケースも少なくありません。給付金の上限が低いことが、経済的な理由から育児休業取得を断念する要因となっているのです。
もう一つの背景は、少子化対策の観点です。日本の合計特殊出生率は1.26(2022年)まで低下しており、政府は「異次元の少子化対策」を打ち出しています。夫婦が希望する子どもの数を持てない理由として、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」とともに、「仕事と子育ての両立が難しい」という声が多く聞かれます。
父親が育児に積極的に参加できる環境を整えることは、母親の育児負担を軽減し、第2子、第3子を持つことへの意欲を高める効果が期待されます。そのためには、父親が経済的な不安なく育児休業を取得できる制度設計が必要であり、給付金の上限引き上げはその重要な施策の一つと位置付けられています。
また、働き方改革の推進という観点からも、上限引き上げの議論が高まっています。長時間労働の是正や、ワークライフバランスの実現には、男性が育児や家事に参加できる時間を確保することが不可欠です。育児休業給付金の充実は、男性が仕事中心の生活から脱却し、家庭生活にコミットする契機となります。
経済界からも、優秀な人材の確保・定着という観点から、育児休業制度の充実を求める声が出ています。特に専門職や管理職では、育児休業中の収入減が大きくなるため、人材流出のリスクにつながります。給付金の上限を引き上げることで、企業は優秀な人材を維持しながら、ダイバーシティ経営を推進できるというメリットがあります。
さらに、ジェンダー平等の実現という国際的な要請も、議論の背景にあります。先進国の多くでは、父親の育児参加を促進するための手厚い給付制度が整備されています。日本の制度が諸外国と比べて見劣りすることは、国際社会からの評価にも影響を与えかねません。
諸外国との比較から見る日本の課題
育児休業給付金の上限について、諸外国の制度と比較すると、日本の課題が浮き彫りになります。多くの先進国では、育児休業中の所得保障がより手厚く設計されており、高年収層でも十分な給付を受けられる仕組みになっています。
スウェーデンでは、育児休業給付の上限額が極めて高く設定されています。給付率は休業前所得の約80%で、上限額は月額約55万円(日本円換算)に達します。この水準であれば、ほとんどの労働者が実質的に80%近い給付を受けられることになり、経済的な不安なく育児休業を取得できます。
ドイツの育児手当制度では、休業前所得の65%から67%が支給され、上限額は月額約40万円程度です。また、低所得者には給付率が引き上げられる仕組みもあり、所得階層に応じたきめ細かい配慮がなされています。ドイツでは父親の育児休業取得率も高く、制度の充実が取得促進につながっている好例と言えます。
ノルウェーでは、100%の給付で49週間、または80%の給付で59週間のいずれかを選択できる制度となっています。上限額は年収約1,000万円相当まで対応しており、高年収層でも実質的な給付率が大きく下がることはありません。さらに、父親専用の育児休業期間(パパ・クオータ)が設定され、父親の取得を強く促す仕組みになっています。
フランスでは、第1子の場合は6か月間、第2子以降は3年間の育児休業が認められ、その間の手当も充実しています。所得に応じた給付制度に加えて、家族手当など複数の支援策が組み合わされており、子育て世帯への総合的な支援が行われています。
イギリスでは、法定育児休業手当の給付率は休業前所得の90%と高い一方で、支給期間が6週間と短く設定されています。その後は定額給付に切り替わるため、長期的な所得保障という点では課題もありますが、休業開始直後の経済的な不安を軽減する効果は高いと評価されています。
これらの国々と比較すると、日本の育児休業給付金は給付率こそ67%と悪くないものの、上限額の低さが大きな課題となっています。年収600万円程度から上限の影響を受けるという水準は、先進国の中でも低い部類に入ります。特に、育児期にある30代後半から40代の労働者の平均年収を考えると、多くの人が上限に達してしまう制度設計は問題があると言わざるを得ません。
また、諸外国では父親の育児休業取得を促進するための独自の施策も充実しています。父親専用の休業期間を設定したり、父親が取得した場合にボーナス期間を付与したりするなど、インセンティブを設ける工夫が見られます。日本でも「パパ・ママ育休プラス」などの制度はありますが、経済的なインセンティブという点では不十分です。
さらに、諸外国では育児休業給付だけでなく、児童手当や保育サービスの充実など、子育て支援策が総合的に整備されています。日本でも2024年度から児童手当の拡充が始まりましたが、諸外国と比べるとまだ十分とは言えず、育児休業給付金の上限引き上げとあわせて、総合的な支援策の強化が求められています。
上限引き上げを求める声の高まり
育児休業給付金の上限引き上げを求める声は、様々な立場から高まっています。労働組合や労働者団体は、以前から上限の引き上げを要求してきましたが、近年はその声がより強くなっています。
連合(日本労働組合総連合会)は、2023年の政策提言の中で、育児休業給付金の上限額を大幅に引き上げるよう政府に求めています。特に、男性の育児休業取得率を引き上げるためには、高年収層でも実質的に67%の給付が受けられる水準まで上限を引き上げる必要があると主張しています。具体的には、年収1,000万円程度までカバーできる上限額への引き上げを提案しています。
経済界からも、上限引き上げを支持する声が出ています。日本経済団体連合会(経団連)は、優秀な人材の確保・定着という観点から、育児休業制度の充実を重要な課題と位置付けています。特に、専門職や管理職といった高年収層が育児休業を取得しやすくすることは、企業の競争力強化にもつながるという認識を示しています。
子育て支援に取り組むNPO法人や市民団体も、上限引き上げを強く求めています。これらの団体は、父親の育児参加が母親の負担軽減や子どもの健全な成長につながることを指摘し、経済的な障壁を取り除くことの重要性を訴えています。また、上限が低いことで、実質的に母親だけが長期の育児休業を取得するという現状を変える必要があると主張しています。
学識経験者や政策研究者からも、上限引き上げの必要性が指摘されています。労働経済学や社会保障の専門家は、現在の上限額では男性の育児休業取得促進という政策目標の達成が困難であると分析しています。また、少子化対策や働き方改革といった政策課題の解決のためにも、給付金の充実は不可欠だという見解を示しています。
国会でも、上限引き上げを求める質疑が繰り返されています。野党議員を中心に、政府の少子化対策が不十分であると批判し、育児休業給付金の上限引き上げを含む制度改正を求める声が上がっています。与党内でも、子育て支援に積極的な議員からは、上限見直しの検討を促す発言が出ています。
SNSやメディアでも、上限の問題が取り上げられる機会が増えています。実際に育児休業を取得した父親が、上限の影響で大幅な収入減となり、家計のやりくりに苦労したという体験を発信する例も見られます。こうした声が社会的な関心を高め、制度改正への機運を盛り上げる役割を果たしています。
一方で、上限引き上げに慎重な意見もあります。財務省や一部の経済学者は、雇用保険財政への影響を懸念しています。上限を大幅に引き上げれば、給付総額が増加し、雇用保険料率の引き上げが必要になる可能性があるという指摘です。また、高年収層への給付を手厚くすることが、所得再分配の観点から適切かという議論もあります。
育児休業給付金の上限引き上げはいつ実現するのか?
育児休業給付金の上限引き上げについて、具体的な実現時期や見通しを検討しましょう。過去の制度改正の経緯、政府の現在の検討状況、そして上限引き上げがもたらすメリットとデメリットについて詳しく分析します。
過去の上限額改定の経緯
育児休業給付金の上限額は、制度創設以来、どのように推移してきたのでしょうか。過去の改定の経緯を振り返ることで、今後の見通しを考えるヒントが得られます。
育児休業給付制度が創設されたのは1995年です。当初は「育児休業給」として、休業前賃金の25%が支給されていました。この時点では上限額も低く、多くの労働者にとって育児休業中の所得保障としては不十分な水準でした。
2000年には給付率が40%に引き上げられ、2010年には50%まで引き上げられました。さらに2014年には、休業開始から180日間については67%に引き上げられるという大きな制度改正が行われました。この改正は、育児休業の取得促進、特に男性の取得を促すことを目的としたものでした。
しかし、給付率の引き上げは行われてきた一方で、上限額については前年度の平均給与の増減に応じた機械的な改定にとどまっています。2014年の給付率引き上げ時も、上限額の大幅な引き上げは見送られました。
具体的な数字を見ると、2014年8月時点での上限額は、30歳以上45歳未満で賃金日額14,470円でした。これが2024年8月には16,530円となっており、10年間で約2,000円の増額にとどまっています。年率にすると約1.4%の増加であり、この間の賃金上昇率とほぼ同じペースです。
2020年代に入ってからも、上限額の大幅な引き上げは行われていません。2020年8月は15,500円、2021年8月は15,680円、2022年8月は15,690円と、毎年数十円から数百円程度の増額が続いています。2023年8月には16,050円、2024年8月には16,530円となり、やや増額幅が大きくなりましたが、これも平均給与の上昇に連動したものです。
過去の改定を見ると、給付率の引き上げという大きな制度改正は行われてきたものの、上限額については抜本的な見直しが行われてこなかったことがわかります。これは、雇用保険財政の制約や、所得再分配の観点からの議論があったためと考えられます。
また、育児休業給付金の財源である雇用保険の保険料率も、長期的には引き下げ傾向にありました。失業率の低下により雇用保険財政に余裕が生まれたことから、保険料率は段階的に引き下げられてきました。このような状況下では、給付の拡充よりも保険料負担の軽減が優先されてきたと言えます。
ただし、2022年度からは雇用保険料率が引き上げられており、財政状況も変化しています。また、政府が「異次元の少子化対策」を打ち出したことで、育児支援策の拡充に向けた財源確保の議論も活発化しています。これらの変化が、今後の上限額改定にどう影響するかが注目されます。
政府の検討状況と今後の見通し
育児休業給付金の上限引き上げについて、政府はどのような検討を行っているのでしょうか。現在の状況と今後の見通しについて、公表されている情報をもとに分析します。
政府は2023年3月に「こども未来戦略方針」を閣議決定し、その中で育児休業の取得促進を重点施策の一つに掲げました。しかし、この方針では給付金の上限引き上げについて具体的な言及はありませんでした。代わりに、「男性育休の取得促進」として、企業への働きかけ強化や、育休取得の情報公表義務の対象拡大などが盛り込まれました。
2023年12月に閣議決定された「こども未来戦略」では、育児休業給付に関して「手取り収入の実質10割相当」を実現するという方針が示されました。これは、給付金に加えて社会保険料免除の効果を合わせると、手取りベースでは休業前とほぼ同水準になるという意味です。ただし、これも上限額の引き上げとは直接関係しない内容でした。
厚生労働省の労働政策審議会では、育児休業制度の見直しについて継続的に議論が行われています。2024年の審議では、育児休業の柔軟化や、男性の取得促進策などが検討されましたが、給付金の上限引き上げについては本格的な議論には至っていません。
一方で、財務省は雇用保険財政の健全性維持を重視する立場から、給付の拡充には慎重な姿勢を示しています。2024年度予算の編成過程でも、育児休業給付の総額は増加傾向にあり、上限を引き上げればさらに財政負担が増すという懸念が示されました。
政府内でも意見が分かれているのが現状です。こども家庭庁は少子化対策の観点から制度の充実を求める立場ですが、財務省は財政規律を重視します。厚生労働省は両者の間で調整を図る立場にあり、大幅な制度改正には慎重にならざるを得ない状況です。
ただし、いくつかの前向きな動きも見られます。自民党の若手議員を中心とする勉強会では、育児休業給付金の充実を含む子育て支援策の強化が議論されています。また、公明党は少子化対策の一環として、給付金の上限見直しを検討すべきという提言を出しています。
2025年度の予算編成に向けて、上限引き上げが議題に上る可能性はありますが、実現のハードルは高いと見られています。最も可能性が高いのは、段階的な引き上げです。例えば、まず年収800万円程度までカバーできる水準に引き上げ、その後の経済状況や財政状況を見ながら、さらなる引き上げを検討するという方法です。
また、上限額そのものの引き上げではなく、別の形での支援拡充が検討される可能性もあります。例えば、企業が独自に上乗せ給付を行った場合の税制優遇や、育児休業中の社会保険料免除のさらなる拡充などです。
長期的な見通しとしては、2030年ごろまでに段階的な引き上げが実現する可能性があります。政府が掲げる「2030年代に入るまでに少子化傾向を反転させる」という目標を達成するためには、育児休業給付金の充実が不可欠であり、そのための制度改正は避けられないという認識が広がっています。
上限引き上げのメリットとデメリット
育児休業給付金の上限を引き上げた場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。様々な観点から検証してみましょう。
最大のメリットは、男性の育児休業取得率の向上です。特に高年収の男性にとって、上限引き上げは経済的な障壁を取り除くことになり、取得への意欲を高める効果が期待できます。実際に諸外国の例を見ると、手厚い給付制度が父親の育児参加を促進していることが確認されています。
育児休業の取得が進めば、母親の育児負担が軽減され、出産後の職場復帰がしやすくなります。これは女性のキャリア形成を支援し、男女格差の是正にもつながります。また、夫婦で育児を分担できる環境が整えば、第2子、第3子を持つことへの意欲も高まり、少子化対策としての効果も期待できます。
企業にとっても、優秀な人材の定着というメリットがあります。高年収の専門職や管理職が育児休業を取得しやすくなれば、出産・育児を理由とした離職を防ぐことができます。また、男性の育児参加が進むことで、企業文化の変革や、ワークライフバランスの実現にもつながります。
経済的な観点からは、育児休業給付金の支出増は、消費の下支えにもなります。育児休業中の世帯は、収入減により消費を抑制する傾向がありますが、給付金が増えれば、育児用品や教育関連の支出を維持できます。これは経済の活性化にも寄与します。
一方、デメリットとしては、雇用保険財政への影響が最も大きな課題です。上限を大幅に引き上げれば、年間の給付総額が数百億円から数千億円規模で増加する可能性があります。これをカバーするためには、雇用保険料率の引き上げが必要になるかもしれません。
雇用保険料率が上がれば、労働者と事業主の負担が増加します。特に中小企業にとっては、人件費の増加が経営を圧迫する要因となる可能性があります。また、高年収層への給付を手厚くすることが、所得再分配の観点から適切かという議論もあります。
財政面での懸念に加えて、制度設計上の課題もあります。上限を引き上げると、育児休業の取得期間が長期化する可能性があり、企業の業務運営に影響を与えるかもしれません。また、給付金目当ての不正受給のリスクも高まるため、審査体制の強化が必要になります。
さらに、上限を引き上げても、それだけで男性の育児休業取得が劇的に増えるとは限りません。職場の雰囲気やキャリアへの影響といった非経済的な障壁も大きいため、給付金の充実と並行して、企業文化の改革や、育休取得者への不利益取扱いの防止といった施策も必要です。
メリットとデメリットを総合的に判断すると、上限の段階的な引き上げが現実的な選択肢と言えます。例えば、まず年収800万円程度までカバーできる水準に引き上げ、その効果を検証しながら、さらなる引き上げを検討するという方法です。
また、上限引き上げと併せて、育児休業の質を高める施策も重要です。例えば、休業中のスキルアップ支援や、復職後のキャリア支援を充実させることで、育児休業が労働者のキャリアにとってマイナスにならないようにする工夫が求められます。
財源については、雇用保険料だけに頼るのではなく、一般財源からの繰り入れを増やすことも検討に値します。少子化対策は国家的な課題であり、雇用保険の枠を超えた財政支援が必要だという認識が広がりつつあります。こども家庭庁の創設により、子育て支援の予算が増額される方向にあり、この中で育児休業給付金の充実を図ることも可能です。
まとめ:育児休業給付金の上限引き上げについて
育児休業給付金の上限引き上げに関するまとめ
今回は育児休業給付金の上限引き上げについてお伝えしました。以下に、今回の内容を要約します。
・育児休業給付金の上限額は2024年8月時点で30歳以上45歳未満が賃金日額16,530円であり、年収600万円程度から上限の影響を受け始める
・上限額は毎年8月1日に改定されるが、前年度の平均給与増減率に応じた機械的な改定にとどまり、大幅な引き上げは行われていない
・男性の育児休業取得率は17.13%(2022年度)と低く、収入減少への不安が取得を躊躇する大きな要因となっている
・諸外国と比較すると日本の上限額は低く、スウェーデンは月額約55万円、ドイツは約40万円の上限が設定されている
・労働組合や経済界、NPO法人、学識経験者など様々な立場から上限引き上げを求める声が高まっている
・過去の制度改正では給付率は25%から67%へ段階的に引き上げられてきたが、上限額の抜本的な見直しは行われてこなかった
・政府は「こども未来戦略」で育児支援を重点施策に掲げているが、給付金の上限引き上げについて具体的な方針は示されていない
・財務省は雇用保険財政の健全性維持を重視し、給付の拡充には慎重な姿勢を示している
・上限引き上げのメリットは男性の育児休業取得率向上、母親の負担軽減、少子化対策効果、企業の人材定着などである
・デメリットは雇用保険財政への影響、保険料率引き上げの可能性、所得再分配の観点からの議論などである
・現実的な選択肢は段階的な引き上げであり、まず年収800万円程度までカバーする水準への引き上げが考えられる
・上限引き上げだけでなく企業文化の改革や育休取得者への不利益取扱い防止など総合的な施策が必要である
・財源確保については雇用保険料だけでなく一般財源からの繰り入れ拡大も検討に値する
・長期的には2030年ごろまでに段階的な引き上げが実現する可能性がある
・育児休業給付金の充実は少子化対策やワークライフバランス実現のために不可欠な施策である
育児休業給付金の上限引き上げは、単なる給付額の問題ではなく、日本社会の働き方や家族のあり方を変える重要な施策です。財政面での課題はありますが、少子化という国家的な危機を乗り越えるためには、思い切った制度改正が求められています。今後の政府の動向に注目し、より良い制度の実現に向けた議論が深まることを期待しましょう。

コメント